より良き教育を求めて ちからのブログ

30年の高校教師の経験から学校・教師・教育について考える

「変形労働時間制」導入は議論する価値もなし

 公立学校の教員について、1年単位の変形労働時間制の導入が政府で検討されていて、法改正が進めば2021年春からの導入が可能になる。

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 「1年単位の変形労働時間制」とは、授業期間の定時を延ばし、その分の振替を夏休み期間等に持っていく制度改革である。
 この導入に対し、斉藤ひでみさん(仮名)が呼びかけ人となって、反対の署名が集められている。斉藤さんは次の➀~⑥のような環境悪化が起こると考えている。

➀過労で倒れる教員が増える
 過労で倒れる教員が多いのが、長期休みまでの期間だと言われています。どこかでまとまった休みが確保されるとしても、そこに辿り着くまでに倒れてしまうのです。日々の疲れは、短期のうちに回復させなければなりません。教員も人間なんです。

②我が子を迎えに行けない・介護が成り立たない
 子育て世帯や介護世帯など、どうしても17時に帰らなければならない教員がいます。定時が延長されると、19時まで学校に残らざるを得ない、ということも起こり得ます。延長された定時まで、みっちりと会議等が詰め込まれることは明白です。

③定時後の「無限・無賃残業」は変わらない
 今回の改革は、残業を残業と認めない「給特法」の仕組みを大きく変えないでなされるということです。つまり、定時後に「自発的」の名の下で強いられる「働かせ放題」の実態は変わりません。定時までは定められた全体の仕事をし、授業準備など個人の「残業」は時間外に余儀なくされることが容易に想像されます。

④部活顧問が職務命令される
 部活顧問について、文科省の見解は「所定労働時間内に限り職務命令できる」です。定時が延長されることで、部活顧問は正式に職務命令可能となります。「部活顧問が辛すぎる、本来任意のはずでは…」という声の高まりの中で、全員に顧問を強いる環境が整おうとしています。

⑤年休は使えない
 夏休みに振替で休んでもらうということですが、これは言わば「代休」であって、年休の消化にはなりません。現在、唯一と言って良い年休消化の機会が夏休み期間ですが、制度導入後、一年を通して年休を使う機会はなくなります。

⑥夏もおそらく休めない
 夏休み期間に、あらかじめ定められた休日が設けられても、休める保証はありません。夏休み期間だって、暇ではないのです。現在の土日同様、「自発的」な部活指導や校内事務を余儀なくされることが予想されます。また、夏休み後に向けて家で授業準備をせざるを得ない…ということも起こり得ます。

  全く斉藤さんの言う通りである。ではどうすれば良いのかと言うと、

 この制度改革について、私が最も不審に思う点は、「夏休み期間に十分休んでもらうため」という理由で進められようとしていることです。この理由が真ならば、無理矢理に制度をいじらなくても、岐阜市がすでに行っているように、2週間ほどの長期閉庁期間を設ければ良いだけのことです(閉庁期間とは、対外対応や会議等の仕事を入れない期間のこと)。閉庁期間は年休で存分に休んでも良いし、授業準備を進めたい教員は閉庁期間に年休を取らず出勤して、静かな校舎内で個人で仕事を進めれば良いのです。

 これもまた、斉藤さんの言う通りである。ではなぜ文科省はこんな制度を導入しようとするのかといえば、

 「夏休み期間に十分に休んでもらうため」に「一年単位の変形労働時間制を導入する」というのはおかしな理屈であり、そこには別の目的があるとしか考えられません。
 それは、「統計上の残業時間を減らすため」であり、「部活顧問の選択権を求める声を抑えるため」であると、私は感じています。

 これまた斉藤さんの言う通りであることは明白である。

 教員は今のままでも夏休みが年休を取りやすいようになっていれば(会議や部活指導などが入っていない期間があでば)、年休を取って休むことができる。

図表 公立小中学校教員の有給休暇の取得日数(2015年の状況)

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           文科省・教員勤務実態調査(2016年実施)をもとに妹尾昌俊氏が作成

 図表を見て分かるように、有給(年休)取得が年10日未満という教員が半数以上である。会議や部活指導、それに高校なら進学補習や勉強合宿などが夏休みにもあるので、年休のとれる唯一の機会と言って良い夏休み期間でも年休を取得できないで、教員の多くが年休を10日以上も捨てているのが実態である。だから斉藤さんの言う通り長期閉庁期間を設けるのが一番良いのである。そうすればその期間に教員は余っている年休を取得できる。変形労働時間制を導入すれば、夏休みに休むのは他の期間に多く働いた「代休」であるから、ますます教員の年休の取得が減ってしまうだけであるし、斉藤さんが懸念するように、夏休み期間が例えば午前中勤務になったとしても、その期間に部活指導などがあれば、一日まるまる休むことができず、「夏もおそらく休めない」ことになってしまう。
 こんなことは火を見るよりも明らかなことである。だから「変形労働時間制」導入は議論する価値もない、教員にとっては全く無意味なことである。こんな馬鹿げたことを文科省が導入しようとする意図は、教員の残業時間が減ったと見せかけるために他ならない。実に教員を愚弄している。いくらなんでもこんなまやかしに、人の良い教員でも騙されるはずがない。
 こんな提案を出してくる文科省は全く信用できない。私が何度もブログに書いているように、文科省には働き方改革などする気は全くない。文科省は教員を騙そうとさえしている。教員は上(文科省や県教委)が何とかしてくれるだろうなどと思っていてはダメである。今こそ教員は一致団結して、現場から抜本的な改革を提案していくべきである。
 他校ではこういう取り組みをしているから、うちの学校でも取り組みを始めなければならないとなって、教育の場はどんどん競争が激化していく。規制しなければ、激化するのが教育の場の自然の流れである。だから文科省は規制して激化を止めなければならない。規制して教育の場で働く教員を守らなければならない。それが文科省の使命なのである。それを全く理解していない。
 私はこのブログで高校の改革案を提示した。私が示した改革案が絶対的に正しいと言っているわけではないが、教員は今こそ立ち上がる時である。少々の混乱、いや大きな混乱が起こるくらいの大胆な改革案を、教員から提案するべきである。