より良き教育を求めて ちからのブログ

30年の高校教師の経験から学校・教師・教育について考える

高校の非常勤講師が残業代求める

 静岡県掛川西高校に勤務する非常勤講師・岡野さん(74)が、「実際に教室で授業をする時間以外にも、試験の作成や採点、授業の準備などで月40時間以上を費やし、ほぼ全てが無給となっている」と主張して、3月30日に静岡県教育委員会に残業代の支給を求めて文書を再提出した。岡野さんは2月13日に実態に見合った賃金の支給などを求める要求書を提出していたが、主張が認められなかったとして30日に再び提出した。

 静岡県の人事委員会は岡野さんの要求に対する審査を継続していて、状況を改善するための勧告などをするかどうかは今後判断するとしている。

 非常勤講師の賃金は最低賃金にも達していない。これが現状である。高校の非常勤講師の募集は、ハローワークの求人票では時給2500円程度となっている。時給2500円というと高い賃金に思われるが、時給2500円というのは1時間の授業の賃金である。授業の分しか賃金は全くでない。だからもし授業が1限と3限にあったら、賃金は5000円で、空き時間の2限の賃金は支払われない。
 何も準備をせずに教室に行って授業ができるだろうか。1時間の授業をするには、最低限1時間は教材研究が必要である。1時間というの最低限である。ちょっと調べ始めれば2時間や3時間はあっという間に過ぎる。時にはプリントを作ることもあるし、テストを作成することもある。私は国語の教員だったが、定期テストの作成には、解答用紙を作り、模範解答を作るだけでも2時間は必要だった。問題の作成にはその数倍の時間が必要だから、合計すると少なくても10時間はかかっていた。だから私はテストが近づいてから作り始めるのではなく、時間を見つけては少しずつ作成していた。採点にも時間がかかる。私の場合は1クラス(40人)の採点に2時間はかかった。
 だからそれらの時間のことを考慮すれば、非常勤講師の賃金は最低賃金にも達していないことになるし、岡野さんが残業代を要求するのも当然のことなのである。だが残業代が支払われることは恐らくないだろう。支払うことになれば、非常勤講師の賃金は現在の2倍くらいにはなる。そんなことはまずできまい。
 岡野さんの主張は認められないだろうが、よくぞ非常勤講師の思いを代弁してくださった、と岡野さんに敬意を表したい。我が国はあまりにも教育にお金をかけていない。教員、講師に犠牲を強いるばかりである。教員は増員し、非常勤講師は賃金をアップする。そうしなければ教育の質を維持することはできない。日本の教員の質は高いと一般的には思われているが、それは幻想である。そういう幻想を抱いているから、教員が勉強に当てる時間がなくなるほど仕事を増やしても、しっかり教えてくれると思い込んで安心しているのである。何の根拠もない日本の教員は優秀という幻想を利用しているのである。防衛費を増額などしている場合ではない。未来を作る教育にこそお金を掛けるべきである。それが何よりもの国家の防衛策である。教員がようやく声を上げるようになってきたが、教員よりも弱い立場の非常勤講師もこの岡野さん勇気ある主張を契機にして、大きな声を上げなくてはならない。ぜひとも岡野さんに続いてほしい。