より良き教育を求めて ちからのブログ

30年の高校教師の経験から学校・教師・教育について考える

大学入学共通テスト・国語について

 センター試験は2020年1月の実施を最後に廃止される。そのセンター試験の代わりとして、2021年から実施されるのが大学入学共通テストである。大学入学共通テストでは国語と数学Ⅰで記述式問題が出題され、英語では民間資格・検定試験(民間試験)の活用が打ち出されている。英語での民間試験の導入は、公正公平を旨とする大学入試にそぐわない。その理由をここで述べることはしないが、考え直すべきである。ここでは一昨年・昨年に実施されたプレテストから国語の問題について考えてみたい。

 国語はセンター試験では現代文の大問2問(評論と小説)と古文、漢文の大問がそれぞれ1問ずつの合計4問で、試験時間は80分であった。それが大学入学共通テストでは記述式の問題が加わって大問5問となり、試験時間は100分となる。2回のプレテストから見ると、現代文(小説)と古文、漢文の出題内容はセンター試験の内容と大差がない。(一昨年のプレテストと比較すると、昨年実施されたプレテストでは小説〔詩〕、古文、漢文はセンター試験に近い問題となっている。)大きく変わるのは、新たに加わる記述式の問題と従来の評論に当たる出題である。

 まず記述式の問題を見ていきたい。記述式の問題を出題するねらいは「思考力・判断力・表現力」を測ることのようであるが、全くその能力を測る出題となっていない。そもそも判断力などどうして評価するのか。記述式問題の数は3問で、一昨年のプレテストではそれぞれ50字以内、25字以内、80~120字で答えるもので、昨年のプレテストでは30字以内、40字以内、80~120字で答えるというものであった。本番の大学入学共通テストでは50字以内の少ない字数で答える問題が2問と、80~120字で答える問題1問の合計3問となるのだろう。一昨年の50字以内、25字以内で答える問題は、資料など(規約、会話文、資料➀~③というように複数のものが示されている)から、適する箇所を抜き出すだけで答えられる、「キーワード探し」に過ぎない問題であった。昨年の30字以内、40字以内で答える問題は、文章(二つの文章が示されている)の中から適する箇所を見つけ、それを少しアレンジして答える問題となっていた。いずれにしても表現力が試されるような問題ではない。気になるのは昨年の正答例である。問1は「指差しが魔法のような力を発揮する」とは、どういうことか、というものであるが、三つ示された正答例の内、二つに「指差し」という言葉が入っていないのである。それで答えになるのだろうか。問2でも文章からそのまま抜き出しただけのような、「英語の先生がするように、手にとって、「これが本だ」と教えてはくれない。」が正答例として示されていたが、これは問題文の中に「ある単語とその指示対象との対応関係の把握は、容易そうでいて実はさほどやさしい作業ではない」と書かれていて、その文脈の中で意味を成すものである。「まこと」が整理した中にはその文がなから、完全な正答と言うことはできない。私なら「英語の先生がするように、手にとって、「これが本だ」と教えてはくれない。」という答えでは、10点満点としたら5点しかやらない。問題の作成者自身が問題の意味を分かっていない。

 80~120字で答える問であるが、一昨年のプレテストでも昨年のプレテストでも、答え方に様々な指示が与えられている。昨年の場合は、

 (1)二つの文に分けて、全体を八十字以上、百二十字以内で書くこと(句読点を含む)。

 (2)一文目は、「話し手が地図上の地点を指さす」行為が「指さされたものが、話し手が示したいものと同一視できないケース」であることを、【資料】に示されたメニューの例に当てはめて書くこと。 

 (3)二文目は、聞き手が「話し手が示したいもの」を理解できる理由について書くこと。ただし、話し手と聞き手が地図の読み方について共通の理解をもっているという前提は書かなくてよい。

 (4)二文目は、「それが理解できるのは」で書き始め、「からである。」という文末で結ぶこと。

と書かれていて、採点がしやすいように、様々な答えが出ないように指示を出している。これでは表現力を見るどころか、表現力に差が出ないような工夫がされているのである。東北大学が出した「思考力や表現力(を測ること)は重要だが、大学の個別試験や推薦入試において、すでに、これから「共通テスト」で実施される記述式試験より高度な問題が出題されている。だから思考力や表現力はすでに十分よく評価できている」という声明のとおりで、このプレテストような問題では、記述式問題を加えることには全く意味がない。

 この記述式問題以上にひどいのは、評論の代わりに出題される現代文である。この問題が大学入学共通テストでは、大問の2番目の問題になる。この問題では複数の資料や図・表、それに文章が示される。昨年のプレテストでは資料Ⅰ、資料Ⅱと表1~3が入った文章とが示され、それらに目を配りながら問題に答えることになる。(これまでのセンター試験のように、一つの文章を読んで答える問題ではない。)この表が入った名和小太郎の『著作権2.0 ウェブ時代の文化発展をめざして』という文章が実に分かりにくい文章で、とうてい大学入試の問題にふさわしいと言える文章ではない。著作権について書かれている文章であるが、あらかじめ相当に著作権について考えている専門家などでない限り、サッと読んですぐ正確に内容を読み取ることができる文章ではない。(一つ一つ具体的な例を思い浮かべながら、じっくりと読んでいかなければ、内容を理解できる文章ではない。)複数の資料などと関連させた問題を作成するために、この文章をわざわざ選んだとしか思われない。この大問2の正答率は漢字の問題を除くと非常に低く、最も低い問では(五つの選択肢から正答を選ぶ問題であるのに)正答率が17.1%で、最も高い問でも40%代である。どうしても複数の資料などを関連させた問題を、思考力・判断力を測る問題として出題したいのであろうが(それが大学入学共通テスト・国語の目玉なので)、こんな問題ではどうにもならない。そもそも提示される資料や文章を複数にしたからと言って、思考方法が変わるわけではない。ただ複数の資料や文章に目を配らなければならなくなる(当然読まなければならないものが多くなる)ために、センター試験の問題を解く以上に解答に時間が多く必要になるだけである。思考力や判断力は一つのことを追求する中で、様々な疑問を解決していきながら身に着けていくものであって、安直に測れるものではない。大学入学共通テストでは大問が1問加わるために、試験時間がセンター試験のときより20分長くなるが、ますます時間に追われて問題に答えなければならなくなることが目に見えている。昨年のプレテストは一昨年のプレテストと比較すると、読まなければならない資料などを相当減らしてはいるが、このままでは受験生はセンター試験のとき以上に解答時間が不足するだろう。私はセンター試験も廃止するべきであると書いたが、大学入学共通テストはセンター試験以上にひどい。まだセンター試験の方がましである。

 もう共通テストは全面的に廃止して、以前のように各大学が自分の大学に必要な学生を、自分の大学で作った独自の試験で選べばいいのである。共通テストの役割は終わった。いい学生に入学してもらいたいなら、大学はもっと時間を掛けていい入試問題を作成するなど、それ相応の努力をするべきである。センター試験やそれに代わる大学入学共通テストを作成するのは、独立行政法人大学入試センターであるが、こういう組織を作ることには、特に慎重にならなければならない。一旦組織を作ってしまうと、存続させることが自己目的になってしまうからである。こういう組織を作るときは、期限を限るべきなのである。大学入試センターを廃止できないために、共通テストを続けるようなことがあってはならない。

 これから受験する生徒は、入試の試験問題を批判はできない。ただ与えられた試験問題を解くだけである。現役の教員も批判しているくらいなら、生徒の点数が上がるような方策を考えろ、と言われそうである。私は既に教職を離れ自由にものが言える立場である。これまで考えていたことをここに書いた。

 私がここに書いたことは、一昨年、昨年に実施されたプレテストを、実際に見ないと理解できないところがあると思う。プレテストは公開されているので、ぜひダウンロードするなどしてご覧いただきたい。