より良き教育を求めて ちからのブログ

30年の高校教師の経験から学校・教師・教育について考える

コグトレ

コグトレ(Cognitive Enhancement Training)とは、認知機能強化トレーニングのことである。 皆さんはご存じだろうか。私は宮口幸治氏(立命館大学産業社会学部教授。精神科医、臨床心理士。精神科病院、医療少年院での勤務を経て2016年より現職)の『ケーキ…

改めて「変形労働時間制」を考える

給特法が昨年(2019年)12月に改正され、2021年度より自治体単位で導入可能になるのが、公立学校の「一年単位の変形労働時間制」である。2019年10月1日のブログ(「変形労働時間制」導入は議論する価値もなし)にだいたいのことは書いたが、この3月に岩波ブ…

改定常用漢字表の(付)字体についての解説

常用漢字表(1981年10月1日告示)の改定が約30年ぶりに行われ、2010年(平成22)11月30日に改定常用漢字表として告示された。(文化審議会から答申されたのは6月7日。) 改定作業は文化審議会国語分科会の漢字小委員会で行われた。漢字小委員会は平成17年9月…

言葉の意味借用

新聞のテレビ欄に「山形大学で日本語研究、漢字を愛するアメリカ人」とあったので、BSテレ東「ワタシが日本に住む理由」(2月3日放送)を観た。とても面白かったので紹介したい。 番組で紹介されていたのは、山形大学助教のジスク・マシューさんである。マ…

「いただく」の尊敬語化と誤用

平成24(2012)年1月24日の新潟日報「私の視点」欄に、私の次のような文が掲載された。(現在、新潟日報に「私の視点」欄はなくなっている。) 元日の本誌に「日本語よさげ?に拡大中」という特集記事が掲載され、現代を映す新語・略語が紹介されていたが、…

文化審議会答申「敬語の指針」について

「敬語の指針」が文部科学大臣に答申されたのは、平成19(2007)年2月2日である。その「敬語の指針」第3章 敬語の具体的な使い方・第2 敬語の適切な選び方に次のような記述がある。 【8】 駅のアナウンスで「御乗車できません。」と言っているが、この敬語…

筆順について

今、『日本語の現場 』第一集(この本は第一集から第四集まである)という本を読んでいる。読売新聞朝刊で昭和50年(1975年)6月上旬から連載を始めた「日本語の現場」という記事をまとめたものである。昭和50年当時の学校での漢字教育のようすが分かって、…

英語民間試験導入見送り

11月1日に萩生田文部科学相が、大学入学共通テストへの英語民間試験の導入について「自信を持って受験生に薦められるシステムになっていない」と述べ、2020年度は見送ると発表した。経済格差や地域格差を広げるなどの批判に対し、十分な対応策が間に合わない…

教員間いじめ ネガティブ・ケイパビリティ

神戸市立東須磨小学校で起きた、教員間いじめが話題になっている。先輩の4人の教員がいずれも20代の教員4人をいじめ、被害者4人の内1人の教員が精神的に不安定になって、先月から休職しているという事件である。 どんな被害を受けたかは、テレビなどで詳しく…

「変形労働時間制」導入は議論する価値もなし

公立学校の教員について、1年単位の変形労働時間制の導入が政府で検討されていて、法改正が進めば2021年春からの導入が可能になる。 「1年単位の変形労働時間制」とは、授業期間の定時を延ばし、その分の振替を夏休み期間等に持っていく制度改革である。 こ…

文法重視が「古文嫌い」の原因なのか

先日MA高校で同僚だった教員と、立ち話をする機会があった。その教員は今年、TU中等学校(中高一貫校)に異動していた。働き方改革は進んでいるかと尋ねると、現場は仕事が減るどころか、ますます忙しくなっているという。TU中等では授業のある平日が…

再チャレンジ高校

前回のブログでぜひ読んでほしいと紹介した本・『ルポ 教育困難校』が、「週刊現代」(8月24・31日号)の佐藤優「名著、再び」で紹介されていた。 佐藤氏は本の内容を紹介した後で、次のように結んでいる。 日本の社会を強化するために、教育困難校に人と金…

教育困難校(底辺校)

先日病院でSI高校の教員と久しぶりに顔を合わせ、話す機会があった。私がSI高校を離れて5年目になる。SI高校は5年前には各学年5クラスであったが、今は2・3学年が4クラス、1学年が3クラスとクラス数が減っている。(2年後には各学年3クラスになる。)…

熱中症

暑い日が続いている。今年は気温は昨年ほど高くないが、湿気が多いせいなのかこの暑さは体に応える。私の部屋は机に向かっていれば朝日が背中に当たるし、夕方には西日が射しこむ。一日中とにかく暑い。エアコンもなく扇風機もないので、椅子に座っているだ…

月120時間超残業の教諭自殺に賠償命令

6月10日に福井地裁は、福井県若狭町の上中中学校の新任教諭だった嶋田友生(ともお)さん(当時27歳)が、2014年に長時間過重労働で自殺したことに対し、校長の責任を認め、町と県に約6530万円の賠償を命じた。 嶋田さんは2014年4月に採用され、学級担任や社…

英語民間試験導入中止を求める国会請願

先月の18日に羽藤由美京都工芸繊維大学教授らが、2020年度から始まる「大学入学共通テスト」で導入される英語の民間試験の利用中止を求める請願書を、約8000人分の署名を添えて衆参国会議員に渡し、文部科学省に対しても民間試験の利用中止を要請した。署名…

OECD 国際教員指導環境調査の結果から

2018年に実施したOECD国際教員指導環境調査の結果を、新聞各紙が6月19日、20日に次のような論調で報じている。 日本の教員の長時間勤務は国際的にみても異例であり、1週間の仕事時間は小学校54.4時間、中学校56.0時間で、ともに参加国・地域の中で最長。一方…

教職(高校)を持続可能な仕事にするための改革

私は教職をとてもやりがいのある仕事だと思っている。しかし近年、教員は過重な労働を強いられ、授業では自分のしたいことをする自由も奪われて、教職は実に窮屈で多忙、その日その日の仕事をただこなしていくだけの労働になっている。このような状況は教職…

教職はいつからブラックな労働になったのか(四)  2007.4~2015.3

ここでは2007年(平成19年)4月~2015年(平成27年)3月の8年間を取り上げる。 この8年間、私はSI高校に勤務し、2015年3月に定年退職した。SI高校はM市にある1学年5クラス(全校で15クラス)の専門学科の高校で、世間から低学力校と思われているような…

教職はいつからブラックな労働になったのか(三)  1999.4~2007.3

ここでは1999年(平成11年)4月~2007年(平成19年)3月の8年間を取り上げる。この8年間で高校は完全にブラックな職場になった。2006年度に至って「過労死ライン」を超える時間外労働が常態化する、ブラックな状況が完成する。 私は1999.4から2007.3までの8…

教職はいつからブラックな労働になったのか(二)  1991.4~1999.3

ここでは1991年(平成3年)4月~1999年(平成11年)3月の8年間を取り上げる。この8年の間に社会の情勢が大きく変化した。 まずバブル崩壊(一般的には1991.3~1993.10の期間を指すようである)の後、公務員バッシングが始まる。公務員はバブルの時代にほと…

教職はいつからブラックな労働になったのか(一)   1985.4~1991.3

小学校の教員の3割、中学校の教員の6割が、月80時間以上の「過労死ライン」を超える時間外労働をしているという。高校の調査はなかなか実施されないが、高校の教員の時間外労働も小中学校とほとんど同じ状況にあると考えられる。いつから、どうして、教員…

新元号「令和」・・その示された字形について

4月1日に新元号「令和」が発表された。東大教授の本郷和人氏が三つの理由を挙げてケチをつけたのも、一つの見識を示したものとして好ましい。 その理由とは、次の通りである。 ➀ 「令」は上から下に何か命令する時に使う字。 ② 「巧言令色鮮し仁」という有…

教員評価制度について

私の経験からは、教員評価制度(人事評価制度)は全く形骸化している、と言わざるを得ない。校長(評価者)は義務付けられている、教員(被評価者)との面接もしなければ、教員の授業を見もしなければ、教員に評価を開示してもいない。これが私の経験した実…

小学校教諭、残業代の支払いを求めて提訴

昨年(2018年)9月に、埼玉県の小学校教諭・田中まさお(仮名)氏が残業代の支払いを求めて埼玉県を訴えた。教員はいくら残業しても、残業代はもらえない。給特法により、教員の給与にはあらかじめ給料の月額4%の金額(おおよそ8時間の残業代に相当する金…

灘校の教師・橋本武の『銀の匙』の授業に学ぶ

橋本武(1912~2013)は、灘校で50年間国語を教えた教師である。2005年に教え子の黒岩祐治(現・神奈川県知事)が出版した『恩師の条件』(リヨン社)で、橋本の授業が紹介され脚光を浴びることになったが、橋本武はその時なんと93歳という高齢であった。そ…

「芋」と「芉」は別の漢字

芋(ウ・いも)と芉(カン・はとむぎのみ)は別の漢字である。この二字は縦画がはねてあるかどうかで別の漢字になる。芋は縦画をはね、芉は縦画をとめる。 平成28年2月29日に文化審議会国語分科会報告「常用漢字表の字体・字形に関する指針」が発表された。…

『教えるということ』(大村はま著)に学ぶ (三)

大村はまは八潮高校在職のころ、奥田正造先生の毎週木曜の読書会に参加していた。「先生」とは奥田正造先生のことである。 先生の前でかしこまって緊張している私に、先生は急に、「どうだ、大村さんは生徒に好かれているか。」と、お尋ねになったのです。私…

『教えるということ』(大村はま著)に学ぶ (二)

大村はまは『教えるということ』で、次のように述べている。 私は今日、「教えるということ」を題にしました。なぜかと申しますと、「教える」ということをしない先生がたくさんいて、困るからなんです。それでは、「教えない」っていうのはどういうことなん…

『教えるということ』(大村はま著)に学ぶ (一)

大村はま(1906~2005)は、1928年に長野県の諏訪高等女学校(現・長野県立諏訪二葉高等学校)の教師となり、1938年から東京府立第八高等女学校(現・東京都立八潮高等学校)、そして1947年からは東京都内の中学校で教えた国語の教師であり、国語教育の実践…